教育長のひとこと NO.6

筑波大学附属学校の「オリンピック教育」

今年の夏は暑い日が続きました。やっと秋らしい空になり、空気がさわやかです。実りの秋を楽しみたいと思います。

さて9月の一番のニュースは、2020年オリンピック・パラリンピック開催都市が東京に決定したことです。IOCのジャック・ロゲ会長の「TOKYO 2020」のアナウンスは、今も心に残っています。筑波大学は、東京都ならびに東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会と連携協定を締結し、国際交流を通じて世界平和に貢献するための教育や研究活動を行うことにより、オリンピック・ムーブメントの振興を図ってきました。その中核の一つが「オリンピック教育」です。

オリンピック教育とは、幼児から学生まで、オリンピック・パラリンピックの理念を学ぶことを通して、国際理解・平和教育を推進することをめざすものです。2010年12月に「筑波大学オリンピック教育プラットフォーム(CORE)」が設立され、大学と11の附属学校でオリンピック教育が実践されています。

2012年度における附属学校の実践を、いくつか紹介します(出典:筑波大学オリンピック教育プラットフォーム・附属学校オリンピック教育推進専門委員会編「オリンピック教育(Vol.1 2012/04-2013/03)」。少し長くなりますが、おつきあいください。

1 附属小学校では、5年の社会科で、国際単元「スポーツや伝統文化などを通した世界各国の交流の様子を調べ、相互理解の必要性を理解し、これらかの交流のあり方について主体的に考える」に関する項の発展学習として、古代オリンピックについて調べ、平和の祭典オリンピックの意義について考える学習を行いました。児童は「近代オリンピックが中止になったのは戦争なのに、古代オリンピックが逆に戦争を中止させるために始まった」ことに驚き、「“平和の祭典”と呼ばれる意味がわかったような気がする」という感想を述べています。

2 附属中学校では、2年の総合的学習で「オリンピックに幅広くタッチしてみよう」をテーマとして、活動を行いました。主な内容は、①オリンピック・パラリンピックを様々な角度から学ぶ、②オリンピアン(池田めぐみ氏:フェンシング、アテネ・北京オリンピック)に学ぶ、③オリンピックで「支える」立場として関わった方(アスレティックトレーナー)に学ぶ、④古代オリンピック時代にタイムスリップなどです。オリンピックの価値である「卓越・尊敬・友情」について、生徒たちは様々な視点から学びました。

3 附属高等学校では保健・体育科の「体育理論」の授業で、「オリンピック教育」を行っています。例えば、古代オリンピックの競技種目(槍投げと幅跳び)の体験、またオリンピアン(池田まゆみ氏:附属中学校の項参照)による「Olympic Values-アスリートの視点から」と題する特別授業、IOA講師による「オリンピックとアマチュアリズム」の特別授業などです。生徒たちは、オリンピックの価値について考える機会をもちました。

4 附属駒場中・高等学校では、中学2年の総合学習の一つの班が「2020オリンピック東京招致への願い」というテーマで、スポーツ団体、招致委委員会や博物館などを訪問し、「2016年の招致失敗の理由と2020年招致の場合」などについてまとめました。そして高校1年の保健体育の授業では、アスリートとDNAの関係や短距離選手の身体について紹介し、夏休み中に行われるロンドンオリンピックをテーマにして、スポーツを研究し、新聞にまとめるよう課題を出しました。

5 附属坂戸高等学校では、1年次の学校設定科目「キャリアデザイン」(学びのスキル、ソーシャルスキル、マネジメントスキルを身につけることをめざす)で、オリンピック教育を行いました。「オリンピックを学ぼう、振り返ろう」の授業では、秩父宮スポーツ博物館や国立競技場にも見学に行くなどを通して、人間・社会・自然環境との関係性について学びました。

6 附属視覚特別支援学校では、2012年ロンドンパラリンピックにおいてゴールボールで2年生の若杉遥さんがメダルを獲得したとともに、卒業生が水泳や陸上競技で活躍しました。パラリンピック終了後、中学部・高等部の生徒にパラリンピックについて調査を行ったところ、生徒は主としてラジオを中心に、またネット、テレビなどを通しても競技を視聴していました。生徒たちは身近な先輩が出場していることもあり、興味を持っているという結果でした。またパラリンピックのテレビ放送が少ないという意見が多く出されました。

7 附属聴覚特別支援学校では、プロバスケットボールチーム日立サンロッカーズの選手4名・スタッフ1名を招いて「バスケット教室」を行いました。今年度は「身長が低くても活躍している選手」が参加して、ドリブルの達人振りをみせました。子どもたちは「努力すれば小さくてもプロ選手になれる!」「どんなことでも、毎日コツコツ努力することが大切」と感じました。また希望者は、日立サンロッカーズの試合を観戦し、夢を努力で実現させた選手の偉大さを感じ取りました。

8 附属大塚特別支援学校
知的障害を対象とする大塚特別支援学校では、国際理解教育研究の中で海外の文化に興味関心をもてるよう実体験を主として行っています。ロンドンオリンピックが開催される2012年度は、生活領域「情報を得る」の好機ととらえ、週1回の合同朝会において「オリンピッククイズ」を計3回行いました。例えば、①「(ずぼんにつける)ベルト」、②「ボルト」、③「(うどんにのっている)ナルト」の図から一つ選び、「ウサイン・○○○」の名前をあてるクイズです。高等部では、国内外のメダリストに手紙やビデオレターを送りました。これらのオリンピック教育は、子どもたちのオリンピックへの関心を高め、また選手が育った国について学ぶ機会となりました。

9 附属桐が丘特別支援学校
肢体不自由を対象とする桐が丘特別支援学校では、2012年度はロンドンパラリンピックに当校の卒業生がボッチャの代表選手として出場しました。それは生徒にとってパラリンピックを「スゴイ人たちのスポーツ大会」から少し身近に感じるものにしたようです。当校のオリンピック教育は、保健体育の授業や高等部の総合的な学習における国際交流などで行っています。今年度は体育の授業でボッチャを行う際に、大会前にNHKで放映された卒業生の談話をとりあげることで、オリンピックの精神やスポーツの価値であるフェアプレイの精神、努力することの大切さなどについて、例年より実感をもって学べたと思われます。

10 久里浜特別支援学校
自閉症を対象とする久里浜特別支援学校(幼稚部・小学部)では、子どもの障害特性と年齢を考慮して、オリンピック教育の実践を位置づけています。つまり、当校におけるオリンピック教育を、「スポーツそのものを、障害をもつ子どもたちの健康を維持・増進、手足の巧緻性や操作性を高めるための手段、余暇活動の楽しみ、ルール学習、勝敗に伴う「うれしい」とか「悔しい」などの感情理解、集団競技における相互協力・協働の体験」等の場や機会に関連づけています。具体的には、朝の運動、体育におけるゲームの体験、運動会におけるオリンピックの模擬的体験(聖火への点火や新体操を模したリボンダンスなどです。

オリンピック教育は、グローバル社会における国際理解、平和と協調、またスポーツ・障害者スポーツやフェアプレイ、夢と努力について学ぶ機会を提供します。

筑波大学の11の附属学校におけるオリンピック教育は、まだ発展途上です。しかし、オリンピック・パラリンピックに参加した先輩や仲間が身近にいること、筑波大学における体育学、教育学・障害科学・心理学、医学などスポーツや国際理解を支える学問領域における専門家が多くいることから、オリンピック教育の充実が期待できます。これから2020年のオリンピック・パラリンピックの東京開催を待ちながら、筑波大学附属学校からオリンピック教育の先導的実践の成果をお届けしていけたらと思います。