教育長のひとこと NO.2

グローバル人材に求められる資質とは

木々の緑がさわやかな新緑の季節となりました。少し汗ばむ天候もありますが、目に入る緑と肌に感じる風はさわやかです。

さて筑波大学のミッションの一つがグローバル人材の育成です。グローバル社会とは、国境を越えて地球規模で問題(貧困、感染など)がおき、地球規模での問題解決が必要な社会です。つまりグローバル社会は、多様な文化をもつ人々の交流がさかんになる社会と言えます。そしてグローバル人材とは、グローバル社会で生きていく人あるいはグローバル社会でリーダーシップを発揮する人という意味です。ではグローバル人材に求められる資質はなんでしょうか。今月は、多文化の世界(multicultural world)で生きる力という視点から考えてみます。

「文化」とはある民族などで作り出され共有されている固有の行動様式や生活様式をさしますが、一方私たち一人ひとりがもつ固有の考え方や行動様式も「文化」ととらえることができます。私たちは、どちらの意味においても、「多文化」の世界を生きています。グローバル人材には、多文化の世界で生きる力が必要です。

多文化を生きるための資質について、映画『男はつらいよ』の「フーテンの寅さん」(渥美清さん)、『釣りバカ日誌』の「ハマちゃん」(西田敏行さん)、そして『相棒』の「右京さん」(水谷豊さん)をモデルとして考えて見ます。

第一に寅さんは、相手の文化に染まる力をもっています。寅さんは、山田洋次監督に言わせれば「100人に対して100の顔をもつ」人です。寅さんは、テキヤ(露天商)稼業で全国を旅しながら、多くの人に出会います。寅さんは、出会う相手の一人ひとりの世界にスーッと風のように入り、相手の世界に染まるのです。一人ひとりがもつ生活や文化を理解しようとすることは、人とつながる出発点です。相手の世界に入れてもらうには、相手の価値観でものを見ることが求められます。それは、自分を失う恐怖を伴うものです。ときどき自分を取り戻す時間が必要になります。つまり寅さんの資質は、相手の文化に染まる力です。そして寅さんの手法は、「郷に入っては郷に従え」という文化人類学者のとる手法です。

第二にハマちゃんは、文化や価値観が違う人と対等に、タメ口で関わる力をもっています。ハマちゃんは、「100人に対して一つの顔で接する人」なのです。ハマちゃんは、つりが大好き、家族を愛し、仕事はマイペースというライフスタイルをもっています。相手が誰であろうと、相手に合わせて自分を変えるということはしませんが、同時に相手を無理やり自分の望む方向に変えようともしません。相手を無理矢理変えようとしないことは、人とつながり続ける資質になります。しかし相手の生き方を認め、自分の生き方を示す対等の関わりには、「仲間はずれになるかもしれない」という不安があります。その不安とつきあうことが必要です。つまりハマちゃんの資質は、自分の文化をきちんともち、相手の文化を尊重する力です。まさに多文化間コミュニケーション能力と言えます。

第三に右京さんは、自分の価値観をしっかりともち、多様な人と相棒になる力をもっています。右京さんは、「100人に対して多様なつながりがもてる」人です。警視庁特命係の右京さんは、正義を守ることを人生の核とする人です。特命係の相棒や鑑識係、ときには警察庁の幹部とも「チーム」を組み、難しい事件の謎を解いていくのです。チームは、目的を共有するつながりです。右京さんは、自分の価値観をゆるがすことなく、多種多様な警察官や被疑者とつながっていきます。右京さんの資質は、問題解決のプロセスにおいて、自分の意見を変える勇気をもっていることです。確かに正義感と目的志向が強いゆえ、周りと同調しない場面も多く煙たがられますが、それを恐れる様子はありません。つまり右京さんは、自分の価値観を核としながら、多様な人々と関わり、チームで問題解決をする力をもっています。

グローバル人材には、①(ハマちゃんの)自分の文化をもち、相手の文化を尊重する力、②(寅さんの)ときには相手の文化に染まる力、そして➂(右京さんの)自分の文化を核として、多様な文化をもつ人々と関わり、チームを作る力が求められます。グローバル人材になることは、まぎれもなく、私たち現代人の「今の課題」です。子どもの資質を育てるという大きな役割をもつ私たち大人は、今の課題の当時者としてもがきながら、その姿を子どもに見せることが大切だと思います。

 

(参考文献 拙著「寅さんとハマちゃんに学ぶ助け方」誠信書房)

 

注:『相棒』とは、テレビ朝日・東映の制作でシリーズ化されているドラマであり、映画にもなっています。警視庁の窓際部署である「特命係」に所属する警部である杉下右京さんと「特命係のもう一人の刑事(相棒)」が事件を解決していくストーリーです。右京さんは、東京大学法学部卒のキャリアながら、自己主張が強く出世コースからはずれています。