【プロジェクト研究4】国際的資質を育てる

附属学校教育局 プロジェクト研究4

 

1.研究テーマ

「子どもの国際的資質を育てる実践」

 

2.研究構成員(今年度)

甲斐雄一郎・松本末男・江口勇治・飯田順子・藤原健志(附属学校教育局)、鷲見辰美・荒井和枝・齋藤直人(附属小学校)、秋田哲郎・関谷文宏・國川聖子(附属中学校)、鈴木 亨(附属高等学校)、真梶克彦・小佐野浅子(附属駒場中・高等学校)、建元喜寿・深澤孝之・今野良祐・仲本佳子・石井克佳(附属坂戸高等学校)、足達 謙・寺崎 直・中村里津子(附属視覚特別支援学校)、山本 晃(附属聴覚特別支援学校)、本間貴子・福谷憲司・佐野英孝(附属大塚特別支援学校)、加藤隆芳・佐々木佳奈子・河野文子・松田幸裕(附属桐ヶ丘特別支援学校)

 

3.研究目的・方法

研究目的:以下の3点を目的とする。

①「国際的資質」の定義を明確化し,それを測定する尺度を作成すること。

②①で作成した尺度を用いて,附属学校で実施されている国際教育の実践の効果を検討すること。

③附属学校で実施されている様々な国際教育の活動に関する情報を収集し,国際教育活動の種類を整理する枠組みを検討すること。

 

4.研究成果の概要

3年間のプロジェクトの研究成果として,以下の3点が得られた。

(1)「国際的資質尺度」の開発

「国際的資質尺度」を開発するため,鈴木他(2000)の「国際理解尺度」の項目に加え,研究構成員による内容の検討を重ね,最終的に49項目からなる「国際的資質尺度(仮)」を作成した。附属高校2年生246名を対象に質問紙調査を実施し,因子分析を行った。その結果,『異文化の理解および自国の文化の理解』は「外国人親和性」「多文化尊重」「自国理解」「外国文化への興味関心」の4因子,『コミュニケーション能力』は「他者理解」「英語力」「アサーション」「興味関心」の4因子,『共同での問題解決能力』『海外・国際的交流への積極性』の10の要素が明らかになった。

(2)「国際的資質尺度」を用いた海外研修旅行の効果の検討

開発された「国際的資質尺度」を用いて,各附属学校において海外研修旅行の前後に質問紙調査を実施し,その効果が検討された。

①附属駒場高等学校  台湾の高校と互いに行ききし,研究プレゼンテーションの交流を行っている。台湾への研修旅行に参加した16名を対象に質問紙調査を実施した結果,「親和性」「多文化尊重」「英語力」が1%水準で有意となり(t=3.34~4.47, p<.01),「自国理解」「文化興味関心」「他者理解」「興味関心」「問題解決」「積極性」が5%水準で有意となり(t=2.39~2.62,p<.05),いずれの下位尺度でも事後の得点が事前より有意に高いことが示された。

②附属高等学校 シンガポール3泊5日の研修旅行に参加した2年生246人に対し、旅行前後に質問紙を実施した。プログラムの内容は,現地提携高校の生徒との交流や班ごとにテーマを設定しフィールドワークを行うプログラムであった。その結果、自国に対する理解や外国人に対する親和性、国際交流への積極性などの国際的資質において、旅行前後の得点よりも旅行後の得点が有意に高かった(t=2.69~5.33, p<.01)。

③附属坂戸高等学校  事前に生徒が3か国(オーストラリア,台湾,インドネシア)のなかから渡航先を選択するという取り組みを行っている。「インドネシア」を選択した10名の生徒の事前事後の調査の結果では,「アサーション」(t=2.45, p<.05),「多文化尊重」「文化興味関心」(t=1.88~2.20, p<.10)の向上がみられた。「台湾」を選択した生徒(50名)では,「共同での問題解決能力」の向上がみられた(t=1.76, p<.10)。「オーストラリア」を選択した生徒(90名)では,「親和性」「自国理解」「他者理解」「英語力」「アサーション」の向上がみられた(t=1.73~2.72, p<.05~.10)。渡航先やそこでの経験によって,研修旅行の効果の違いがあることが示された。

④附属聴覚特別支援学校(パリ聾学校との交流) パリ聾学校と互いに訪問するなどの交流を深めている。10名の生徒がパリ聾学校を訪れており,その前後に実施した質問紙調査の結果,「問題解決」が1%水準で有意となり(t=3.49, p<.01),「多文化尊重」「自国理解」「他者理解」「積極性」が5%水準で有意となり(t=2.06~3.49, p<.05),いずれも事後の得点が事前の得点より有意に高いことが示された。

 

(3)国際教育活動の分類に基づく実践の整理

研究会を重ねるなかで,附属学校11校のなかには,生徒が直接,海外研修旅行を体験することは困難な状況もあることが指摘され,国内での異文化体験を工夫してきたことや,教員が海外に赴き教員の体験を生徒に還元するという形での国際教育もあるのではないかという検討がなされた。そこで,異文化体験を伴う国際教育には,実施される場(国内・国外)という軸と,生徒の体験への関与の形(直接体験・間接体験)という軸の2軸で国際教育活動を分類する試みがなされた。その結果,附属学校で現在実施されている国際教育活動は,以下の図のように整理された。図

 

 

5. 今年度の活動

第1回研究会(平成26年7月24日)

・昨年度までの研究成果の確認

・今年度の活動内容打ち合わせ等

第2回研究会(平成26年10月7日)

・「国際的資質尺度」を用いた海外研修旅行の効果の比較(研究成果2のディスカッション)

・国際教育活動の分類に基づく実践の整理(研究成果3のディスカッション)

第3回研究会(平成27年2月○日)

・研究発表会の事前打ち合わせ

・研究報告書の構成やレイアウト等の打ち合わせ

・今後の課題について

 

6.研究成果

報告書

附属学校教育局研究プロジェクト4(編)(2015).子どもの国際的資質を育てる実践-平成24年~26年度プロジェクト研究研究成果報告書 附属学校教育局

研究論文

藤原健志・飯田順子・甲斐雄一郎・松本末男・日下部公昭・鈴木 亨・石隈利紀 (2015).高校生の国際研修旅行経験による国際的資質の変化 学校教育論集,37,19-28.

飯田順子・石隈利紀・佐野二郎・林貴美子・新津勝二・甲斐雄一郎・松本末男・今井二郎・藤原健志(2015).児童生徒の国際的資質を育成する実践~『ヤングアメリカンズワークショップ』を通じた児童生徒の変化 学校教育論集,37,1-10.

学会発表

飯田順子・石隈利紀・甲斐雄一郎・松本末男・深澤孝之・工藤泰三・石井克佳・今野良祐・藤原健志(2014).海外研修旅行が国際理解の向上に及ぼす影響(2)-「オーストラリア」を選択した生徒の経験について 日本学校心理学会第16回神奈川・東京大会プログラム&発表抄録集,49.

石隈利紀・深澤孝之・工藤泰三・石井克佳・今野良祐・甲斐雄一郎・松本末男・飯田順子・藤原健志(2014).海外研修旅行が国際理解の向上に及ぼす影響(3)-「台湾」を選択した生徒の経験について 日本学校心理学会第16回神奈川・東京大会プログラム&発表抄録集,50.

石井克佳・深澤孝之・工藤泰三・今野良祐・石隈利紀・飯田順子・甲斐雄一郎・松本末男・大島由之(2014).海外研修旅行が国際理解の向上に及ぼす影響(4)-「インドネシア」を選択した生徒の経験について 日本学校心理学会第16回神奈川・東京大会プログラム&発表抄録集,51.

 

(文責 飯田順子・藤原健志)