1月のひとこと

昨年は、東日本大震災により、筑波キャンパスでは大型機器や大学会館・体育館などが大きな被害を受け、附属学校においても、施設の一部などの損壊がありました。震災当日およびその後の対応に、附属学校教育局・附属学校の教職員ならびに保護者の方々には、並々ならぬご尽力を頂きました。また、夏場の節電にも大変に忍び難いご苦労をお掛けしました。現在では、各附属学校により経過状況は多少異なりますが、セシウム等汚染場所の除洗、災害に備えた備蓄対応が進行中です。これから長期間に及ぶであろう被災地の復興を考える時、私達も児童・生徒の心のケアなど、私達で出来ることで被災地に貢献しながら、一日も早く震災前の状態に戻ることを願うばかりです。

ところで、昨年末に、本棚の整理をしていた時、2002年4月6日の朝日新聞の切抜きが出てきました。「転機の教育」と題して、その後3回にわたり連載されたものです。ちなみに、第1回目から、タイトルだけを拾うと、「脱日本型:答えは一つではない」、「国際競争力:個人の才能、重み増す」、「学ぶ意欲:満腹の子、量より質」、そして「ゆとり路線:揺らぐ国に募る不信」とありました。これは、当時、学習指導要領が改訂され、いわゆる「ゆとり教育」と称して、学習内容の3割減による基礎基本の徹底と問題解決能力を重視する「生きる力」養成を軸にした教育が導入された年の記事です。この連載では、インターナショナルスクール、一橋大学が始めたMBA(経済学修士)、都立八潮高校における進路に関係する体験学習導入などが紹介され、それぞれの教育内容が、わが国の既存の教育課程とは異なる人材を養成する可能性を述べた記事でした。当時、「ゆとり教育」による学力低下を心配した多くの保護者が子供に塾通いを勧め、社会的に憂慮すべき状況を引き起こすことが懸念され、一方で、新しい学習指導要領の導入以前の段階で、国立大学の法人化を進めた当時の遠山敦子文部科学相が宿題や補修を推奨する「学びのすすめ」と題するアッピールを発表したことなどがやや批判的に書かれていました。それから10年、現在の新学習指導要領では、再び基礎学力の強化が謳われ、「ゆとり教育」から回避するような動きになっているのはご存知の通りです。

“過去に学び、現在を考えて行動する中で、将来が見えて来る”とよく言われます。しかし、どんな時代でも、教育に関して、社会経済的状況が変化する中で、この教育内容が100%信頼にたるとは誰も言えないからこそ、教育に携わる人間は、日ごろの実践を通して、将来にわたり児童生徒に基本的に何が必要なのかということについて、不断に情報発信を行うことが大切であることを、10年前の新聞記事を読みながら再認識した次第です。今日、グローバル経済の浸透に伴い、産・官・学を通して、世界で活躍できる人材養成が求められています。この教育実践は、上記の10年前の記事に書かれていた全国で20校ほどあったインターナショナルスクールの存在意義にもあるように、益々、今後の日本を左右する大きな課題であろうと思います。私達も、筑波大学の附属学校らしい特色のあるグローバル人材の育成に貢献できれば、必ずや、私達のプレゼンスがさらに上昇するはずです。