10月のひとこと

8月のこのコラムに、今年も酷暑の夏の到来と書いたのが嘘のように、彼岸を過ぎると急に気温が低下し、今度は秋の到来と台風シーズンに入りました。ところで、附属学校にとり嬉しいニュースがあります。ロンドンパラリンピックの晴舞台で、附属視覚特別支援学校の若杉遥さん(高等部2年)が3人でチーム競技をするゴールボールで見事に金メダルを獲得しました。私も学校グランドで開催された報告会に駆けつけてお祝いを申し上げました。現役高校生の金メダルは史上初で、若杉さんは、もう既に4年後のブラジル大会のことを夢見ていました。同じ学校の児童・生徒達は勿論のこと、先生や保護者など周囲の人々の喜びはひとしおで、たとえ障害があっても、目標に向かって努力し試合で健闘する姿に多くの国民が勇気をもらい感動しました。最近のスポーツ報道の姿勢には多少気になる所がありますが、単に勝敗だけでなく、パラリンピックの今後の更なる進展に期待するものです。

今月は、この一言シリーズに未登場の附属駒場中・高等学校を紹介したいと思います。既に、筑波大学広報室発行の「Tsukuba Communications Vol.5」で、比較的詳しく学校の特色が書かれていて、それとの重複は避けたいのですが、どうしても中1と高1が1年をかけて行う伝統的実習である、“苗床作り・田植えから始まり餅つきで終わる稲作実習”に触れない訳には行きません。この学校の前身が東京農業教育専門学校であることもその背景にあるとは思いますが、学校創立以来65年もの間、国立大学法人附属学校で稲作実習のある唯一の男子校です。私も、昨年、田植えを見学しました。先生の指導の下、生徒達は、全員協力して手際良く、約30cm間隔に苗を植え、短時間に見事な稲田を作りました。実は、この水田は、オスカー・ケルネルという駒場農学校の教師が明治期に肥料試験などを行った由緒ある“ケルネル水田”と呼ばれ、わが国の近代農学にとって記念すべきものなのです。一昨年、土壌学を専門とする私は、教育長就任前に、校長の承諾を得て、この水田にある種のロマンを感じながら深さ1mほどまで穴を掘り、その土壌断面(Soil Profile)を観察する機会を得ました。結果的には、明治期から現在までの様々な人間活動の影響でしょうか、土壌の中から、ガラス瓶、レンガ、陶器などの破片やその他の様々な人工物が出てきて、ケルネルが研究を始めたころの水田土壌とは随分と違うことが分かり、私のロマンは脆くも消し去られました。思えば、この水田のすぐ上を京王井の頭線が通り、土木工事などで大きな地形改変があったはずです。しかし、水田の土壌は変化しても、生徒の伝統的実習の場として今後も活かし続けて欲しいものです。

ところで、この附属学校は、東京大学への進学者が多いことでも有名ですが、大学受験に特化したカリキュラムは無く、筑駒のオリジナル教材・教養主義に育てられ、数多くの学校行事(音楽祭、体育祭、文化祭、校外学習、弁論大会など)を通して、個々の生徒の豊かな創造性とリーダーシップが育つ処です。SSH事業校としも今年で11年目に入り、国際交流も益々盛んになると共に、科学オリンピックで毎年優秀な成績を上げています。