教育長のひとこと NO.5

ヤンキース・イチロー(39歳)日米通算4000本安打!

 

今年の夏は暑い日が続きながら、激しい雨が局地的に降っています。自然の恵みと脅威を感じます。

 さてスポーツ観戦の好きな私にとって、「現地21日、ニューヨーク・ヤンキースのイチロー外野手が、本拠地ヤンキー・スタジアムで行われたトロント・ブルージェイズ戦で日米通算4000本安打を達成した」というニュースはとっても嬉しいものでした。でも感激したのはそのニュースよりも、イチローの会見です(MLB.jp(GyaO!) 8月22日(木)15時31分配信 による)。

イチローは、「タイ・カッブ、ピート・ローズしかいない4000という大台」のすごい記録に注目する記者に対して、「誇れることがあるとすると、4000のヒットを打つには、僕の数字で言うと、8000回以上は悔しい思いをしてきているんですよね。それと常に、自分なりに向き合ってきたことの事実はあるので、誇れるとしたらそこじゃないかと思いますね」と応える。イチローは、打席の3回に1回以上ヒットを打つ3割打者です。それは一流の選手だからできることなのですが、イチローは「4000回の成功の喜び」よりも「打てなかった8000回の悔しさ」に着目し、悔しさに向き合っている自分に誇りをもっています。「苦しいこと、汚いこと」を「現実」として認め、そこに向き合うことが、人間としての誇りであるという、イチローのメッセージに、私は感動します。

快を求め、苦しみをさける現代は「無痛文明」の時代であると、生命哲学者の森岡正博氏は言います。現代において、私たちは「つらいこと、汚いことを見えなくする装置」にとりかこまれているのです。でも現実は、つらいこと、汚いことがたくさんあります。それにきちんと向き合うことで、生きる意味が見つかるのです。イチローの誇りは、現実をきちんと受け止めて生きている誇りです。

子どもに関わる私たちは、イチローのメッセージを自分自身で受け取りながら、子どもたちにも伝えたいと思います。そして「失敗はよくない」と考え「失敗させない」教育をめざすことの功罪について、あたためて問いなおしたいと思います。子どもは学校生活で苦しいこと、つらいことに向き合いながらも、それでも小さな一歩に出応えと喜びを感じているかもしれません。被災地の子どもは厳しい状況のなかで苦戦しながら、それでも明日に向かって進んでいます。

イチローの姿と子どもの姿と重なるものが、勤勉性なのか、レジリエンス(回復力)なのか・・・さらに考えたいと思います。それがなんであれ、イチローの生き方から、教育に関わる私たちは、明日に向かう勇気と希望をもらいます。